昭島市の不登校に関する講演会に参加しました

昨日は、昭島市不登校に関する講演会に参加しました。
市の不登校施策として、はじめて講演会を企画したようで
新たな試みが実施されていることとても嬉しく思います。

講師は、昭島市に現在3名いるスクール・ソーシャル・ワーカーに研修をしてくださっている、
東京都学芸大学 こどもの学び困難支援センター長 加瀬 進さん。

こちらのセンターは、7年ほど実践した子どもの貧困プロジェクトを踏まえ、その発展系として昨年スタート。
貧困、虐待、不登校の課題に対し3つのプロジェクトをたちあげ、協働して研究を進めることが可能な全国の教育福祉機関・団体(NPO法人、教育関連企業、学校、教育委員会、教育支援センター、子ども食堂、放課後学習支援、第三の居場所等)とネットワークをつくり実践研究や研修教材の開発を進め、
それぞれの成果を誰もが利用できるアーカイブに蓄積しているとのこと。

以下のHPからは支援事例・実践を参照でき、動画教材も自由にダウンロードできるそうです。

https://suretgu.com/

今回は、東京シューレ等フリースクールの調査研究を10年ほど重ねられたご経験や、様々な事例を踏まえておはなしくださいました。

まず、

◆センターにおける3つの研究プロジェクトの概要は以下です。
①貧困研究
沖縄の子ども食堂と毎週1回オンラインで繋ぎ
大学の学生ボランティアとマッチングをして、勉強以外の会話等もしてあたたかな人間関係を築きながら分かりやすい学習支援を試みつつ、
楽しく取り組めるプロジェクトタイムなるものを実践。

プロジェクトタイムでは、シークワーサーを使ったジャムを沖縄と東京双方でつくってみたり、
更には、吉祥寺のアムリタ食堂という飲食店で子どもたちが発案したパフェを販売しているとのこと。自己肯定感を高めることに繋がっているそうです。

②虐待研究
大阪のNPO法人み・らいず2とともに、
虐待によってどのようなことが阻害され、どのような支援が必要となるのか、福祉と教育、官民の協働も視野にいれて、子どもたちがいかなる状況にあっても必要な学びを提供できる教育のあり方を模索しているそうです。

③不登校研究
小金井市教育委員会との協働で大学校内に開室した教育支援センター/適応指導教室にて、不登校の小中学生を対象によりそいと学習支援を行うとともに、全国初のキャンパス内設置を活かし、ICTツールや各種体験プログラムの実施、意欲ある学生ボランティアの学生を実践。
今後公立に展開するミッションを負っているそうです。

◆次に、先生ご自身の体験をおはなし下さいましたが、
学校へ行くことが当たり前、
良い成績をとるために頑張って勉強するのが当たり前という価値観が全身に染み込み、様々な当事者に会い10年ほどたってこの価値観が抜けていったとのこと。

そもそも、能力とは社会がどこに価値を見出すかで、正しく評価されるものであり、例えば医療的ケア児であれば、つなぐ力、表現する力に価値を置けば、能力が高い存在である。ひきこもりや不登校を考える際には、この評価と評定を分けて考える必要があるとのこと。
評価はよりよい支援をするための関わりで、
評定は説明責任で1から5など成績をつけること。
評価が問題ではなく、評定が求められることに問題があり、文科省も内申についての研究をはじめる状況に、現在はなっているそうです。

また、親が子どもを就学させる義務、6(小学校)-3(中学校)-3(高校)制と進路、社会的自立などの考えに縛られると、「繭の中にこもる」→「好きなことに没頭する」→「自分で目標をたてる」→「時自由の中に決まりをつくる」のいずれに子どもがいるかという現在地捉えて、次のステップに登るべきと促してしまいがちだが、本来、子どもは6年-3年-3年で分けられない、助けを求めず生活できる人はおらず、何をもって社会的自立とするのかなど固定観念に縛られては解決できない問題であるとの見解に
先生ご自身がたどりつかれたとのこと。

社会的自立とはひとりぼっちの状態ではなく、必要とされている実感をもてることと見定めながら、
ショック期、否認期、混乱期、解決への努力期、受容期など
ときに揺らぎ繰り返されるプロセスのどこの状態にいるのか
自己理解することがまず必要とのおはなしもありました。

従来の価値観から抜け出すことはなかなかに難しいですが抜け出す必要があること、
偏った価値観に基づく現在の評定には問題ある可能性が多いにあり、
どの子も高い能力を持っているがそれがくまなく評価される制度ではなく、断片的な評価であること。
また、従来の価値観に従って自立を促すステップを順次踏みたくなるものの、次の局面にいくよう促さないスタンスでもって
それぞれの局面で寄り添いながら適切な支援をする同伴者がいる必要であることを理解できました。

◆不登校の理解と支援
必ずしも学校復帰を目指さないということは、
ほおっておいていうということではなく、本当に大切なことは何か理解し、いざ進学のとき手のひらを返さないこと。

大切なこととして、以下挙げられていました。

・貧困地域で、貧困から抜け出すための学習で注目される大阪府立西成高等学校校長の言葉を借りれば、学力よりも学習を保障すること。
(西成高等学校の取組み詳細は以下からも概要が分かります。
https://www.osaka-c.ed.jp/nishinari/ )

家族以外の人との関係(社会性)を求めること。

新しい経験をできるようにすること。

・今の居場所、進学や就職も含めたこれからの居場所、それを準備する場所等の情報提供をすること。

子どもの状況に対し、難しいことではあるがとした上で、
あせらず、あわてず、あきらめず、あたたかく接し
安心できる生活、安全な生活、安定した生活を心がける必要であり、
アンガーマネジメントや子どもに聴く必要性も言及なさっていました。

また、過剰な関心は負担をかけるが、放置は自分には無関心という気持ちをかき立てるため、そのバランスが大事であるとのこと。教育的考え方と福祉的考え方についても、どちらかに偏るのではなく、子どもの特性や状況に応じて使い分ける必要があるそうです。

子どもが休んだ日の過ごし方等も具体的におはなしくださっていましたが、
諸々聞いた上で感じたのはその子に寄り添い常にその状況を踏まえた適切な対応を、家庭だけですることはかなり困難であるということ。
共働きあるいはひとり親の状態と育児に専念ができない状態で(育児に専念ができる状態でも難しいことだと思いますが、単純に就労により物理的時間が足りない)、この理想とする姿を理解し、実践するのは、相当にハードルが高いです。

先生は、お子さんの状態に応じて、今できることを具体的に伝えてくださり、また、かかえこまない、けんかをしない、ひとりよがりにならない、おしつけないを大切にする必要性も示されていましたが、
必要な支援機関・専門家・仲間と繋がり、力をあわせることで、はじめて子どもに適切な対応ができるのだと思います。

頑張るだけではこなしきれない本人の発達特性があれば、WISC等の検査含め専門機関に相談をし、市としてもネットワークをつくっておく。
また、今このままでいいという時間と、これからの変化に期待する時間を過ごすために、進級時の学校復帰、転校、適応指導教室(昭島市では教育支援室)、民間施設、相談室等支援と繋がること、
学校管理職や養護教諭も含め、学校内の誰かと連絡ができる関係を持っていくことを示されていました。
家庭を取り巻く支援策、資源の充実と、それらの情報提供が確実になされている必要があります。

また、不登校の支援はもちろん重要ですが、そもそもなぜ不登校が起きるのでしょうか。
それぞれの事例で背景は異なり、学校で完結しない問題ももちろんあるとは思いますが、少なくとも従来の価値観に縛られる学校運営では幸せを感じられない子どもがいることはまず充分に認識する必要があると私は思います。
そして、これは学校関係者だけが認識を改めるものではなく、
保護者はじめ、子どもを取り巻く私たち大人が充分に認識する必要がある問題です。
どのような価値観にシフトしていくべきかのヒントを、今回の講演では聴くことができましたが、またこのような場を教育委員会からひろく市民に向けて設けるなど、行政、学校、家庭で、認識を共有する工夫をしてくださることを非常に期待します。