憲法改正の手続きを定める「国民投票法」の学習会に参加しました

この6月に第二次改正がなされた、憲法改正の手続きを定めた重要な法律である国民投票法。
昨日は、国民投票法の学習会に参加しました。
講師は、衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任なさり、現在は国民投票総研 代表 の南部義典先生。
著作も数多く出されています。

基礎から非常に分かりやすく教えて下さいました。

【これまでの経緯】

1946年に公布された日本国憲法 第96条では、「憲法改正の発議、国民投票及び公布」について定められており

法律が必要であったところ、

憲法公布から60年を経て公布されたのが、国民投票法です(2007年公布)。

 

第一次改正が2014年にあり、

◆投票権年齢の確定(2018年以降は20歳→18歳以上に引き下げ)

◆国・地方の一般職公務員による国民投票運動の「限界」の設定(公務の中立性を害しない程度という限界)

がなされました。

 

第二次改正が本年6月になされ、このときには

◆投票環境を向上等を目的に、2016年公職選挙法改正で実現した7項目の導入

がなされました。公布は6月18日、施行は9月18日です。

 

条文によると、3年後(2024年9月18日)目途に第三次改正がなされる予定

先生は、この政治・社会状況の下、党派を超えた合意形成が可能であるのか懸念なさっていましたが、

改正すべき事柄としては、

◆2019年公職選挙法改正で実現した「2項目」の対応

ネット広告規制のあり方等の検討

です。

【憲法改正国民投票法までの流れ】

衆議院→参議院の場合で流れを教えて頂きました。

国会法改正、国民投票法制定はなされました(しかし、実務を担う市町村の仕事への財政的手当はまだ決められていない)。

 

現在は、各党個別による憲法改正項目の検討をしている状態ですが、

ここから国民投票運動に至るまで

多岐にわたるプロセスが想定されていました。

 

ポイントは、

衆参議院双方、総議員の3分の2以上で採決される。

与党一党のみでは採決されず、そのため、各党合同による憲法改正項目の協議がひと度はじまれば

この3分の2を意識した協議にならざるを得ないであろうということ。

採決の前にも、憲法改正原案の起草後、各党における了承手続きを経て、憲法改正原案の共同提出がなされます。

 

国民投票運動期間が長い(最短60日間、最長180日間)

この間、

・国民(個人、企業その他の団体)は原則自由に国民投票運動(憲法改正案に対し、賛成又は反対の投票をし、又はしないよう勧誘する行為)をできる(公示前の運動も可能)。運動内容も、ネット広告、投票勧誘グッズの作製・販売など、通常の選挙では買収罪に当たるようなことも運動として実施でき、制限が非常にゆるい状態

費用支出に制限はない(従来全ての選挙には上限額がある)。

未成年者による国民投票運動も認められる

・国民投票運動期間中に選挙運動期間と重なる場合であっても国民投票運動を行うことができる。

・放送事業者は、国民投票に関する放送について、政治的公平の確保に留意しなければならない。

・賛成投票、反対投票の勧誘CMは投票日14日前から禁止。

・公務員、教育者は、その地位を利用した国民投票運動が禁止。

・国民投票犯罪(組織的多数人買収。国民投票では1対1の買収については犯罪にならない)には、罰則がある。

 

また、衆参本会議での採決を経て憲法改正の発議後、

国会に衆院議員10名、参院議員10名の計20名で構成される(どうした人選になるかは不明であるが、

現在の憲法審査会の幹事名簿をみても会派比率で構成が決まると推測。

例:衆議院の憲法審査会名簿 →

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_iinkai.nsf/html/iinkai/iin_s9005.htm 

国民投票広報協議会が設置され

・広報の原稿作成

・広報放送(テレビ、ラジオ)に関する事務

・憲法改正案広報広告(新聞)に関する事務

・公式ウエブサイトの運営 等担うとされるが、

課題としては、

・広報放送の放送時間の尺、回数等が未定

・広報広告のページ面積、回数等が未定

運動期間が長く、期間中争点が変わることもありえ、公報は一回で済まないであろう、

また、例えば、イギリスでのEU残留・離脱を問う国民投票ではイラストをふんだんに使いページ数もとった公報が作られており、従来の選挙公報のようなペラ一枚では充分でなく他国の公報を参考にする必要があろうとのお話もありました。

 

【今後の課題】

上記で書いたように、3年後(2024年9月18日)目途に第三次改正がなされる予定です。

 

2019年公職選挙法改正で実現した「2項目」の対応はすぐにできる内容ですが、

ネット広告規制のあり方等の検討には時間を要するのではないかとのこと。

 

・国民投票法が公布された際の社会的インフラは今と全く異なっていました。

スマホはなく、SNSも動画配信もない状態で、インターネットの主体的利用が意識されていませんでしたが

現在ネット広告のマーケットが大きく、時代がアナログからデジタルへ移行しています。

また、例えば、自身のインターネット上の検索・購入履歴などからAIが判断しいろいろな情報が提示される状況も意思決定に影響します。

これらの状況に対し、運動等のための広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の規制をどうするか

議論が必要であるとのこと。

 

・また、収支報告制度がないため領収書も不要で、資金に関する規制がありません

イギリスやニュージーランドなど運動団体の登録をしたり、寄附上限、寄附公開、収支報告義務づけなど規制する国もあり

参考にすべきとのこと。

(しかし、規制をしているニュージーランドでさえ、大麻合法を問う国民投票では、連日ネット広告で著名人を起用しての賛成キャンペーンが展開されていたそうです。)

 

他にも投票率が低いまま過半数の賛成をもって憲法改正がなされる懸念を払拭するには、

最低投票率ではなく、絶対得票率の導入(現在の国民投票の投票総数の「過半数の賛成」の他に、「有権者総数の○%以上の賛成」という要件を加える)について考えるべきとの提起もありました。

絶対得票率のハードルは高いですが、沖縄県民投票ではこの考えが導入されたとのこと。

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以上、概略をお話頂き、その後細かな質問にもお答え頂いた2時間でした。

 

広報について、現時点での規制の緩さから、資金力がある政党に有利になってしまう可能性への危惧は

これまでも様々な発信から認識していましたが、今回認識を新たにしました。

その懸念に対する法整備は、公平・公正の担保にも繋がるので、確実にしてほしいです。

 

また、先生が「知らないうちにはじまっていることは避けるべく、知らせる必要がある」とのことでしたが、

おっしゃる通りで、国民投票について認識が行き届かないまま憲法改正の流れは避けたい。

 

一方、様々な整備がなされ、国民にもその概要が分かりやすく示されれば、

長期間にわたる国民投票運動中、様々な情報提供がなされることを、

一人ひとりが主体的に考える機会にもできます。

まず自分自身、もっと国民投票法に意識を向ける必要があり、今後の動向も追ってゆきたいと思います。

※南部先生におかれては、以下URL他から発信をなされているようです。→